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「ただいま」
「おかえりなさい……」
俺が玄関のドアを開けると、奥から透がパタパタと駆け寄ってきて、俺に抱きついてくる。
家が全焼してしまってから、俺と透は駅から少し離れた1DKのアパートに移り住み、ささやかな生活を送っていた。
二人だから余り狭苦しさは感じないし、家賃も安い。
透が大きくなったら、もう少し広い部屋に引っ越そうな、なんて言ってみたこともあったが、透には思いっきり拒否された。
いつでも俺の姿が確認できるこの部屋を、透は気に入っているらしい。
やはり身近な人の死は、透の心に強い不安を植え付けていたようだった。
「小学校はどうだった?」
「……うん、楽しかったよ」
そう言って、透は笑う。
今回の事件で、透がいじめにでも遭うのではと思っていたが、それは杞憂だったようだ。
最近の小学一年生は、昔よりも大人になっているのかもな。
そんなことを考えながら、俺は透を連れてキッチンへと向かった。
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