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「これは……?」
玄関の前で日差しを受けて輝くものを見つけた俺は、恐る恐るそれを拾い上げる。
それは、小さな銀色の鍵。
いくつかのキーホルダーがついたそれは、稲垣香澄のものに相違なかった。
「これさえあれば……」
抑えきれないほどの興奮が、胸を熱くする。
稲垣香澄が、バスに乗ったのは確認している。
慌てて気付いて戻ったとしても、まだまだ時間はあるだろう。
いや、そもそも帰宅時まで出す必要の無い鍵が無くなっていることに気づく可能性すら低いのだ。
ゴクリと、唾を飲み込む。
背中に、じっとりと汗が滲む。
いけないことだと分かっている。
法的にも完全にアウトだ。
しかし、ここで一歩踏み込めば、大きく調査を進められるかもしれないのだ。
勝てない。
この誘惑には、勝てない。
俺は震える手で、それを鍵穴に差し込んだ。
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