終息への集束

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  「だから言ったのに。山って言うのはね、登っているときと登りきった瞬間が楽しいの。一度天辺まで上ったらあとは降りていくしかないんだから。すぐに登っちゃうのは勿体無いってね」 全く、響子の言うとおりだ。 もっとゆっくり、歩みを楽しみながら登ればよかったのだ。 そうすれば、道に生えている花や、気付かなかった景色なども楽しめたのかも知れなかった。 ただ、先を目指すためだけの人生のなんとつまらないことか。 その点、響子は楽しみ方を知っているのだなと心から思うのだった。 「ま、いいじゃない。何も山の天辺ばかりが高みじゃないわ。人生は山と違って、どこまででも上がっていけるのよ」 「そうだな。いっそロケットでも作って宇宙に飛んでいくくらいの気持ちでいようか。まあ、それには今持っているもの全てを捨てる覚悟が必要だがな」 そう、俺に足りないのはまさにそれだったのだ。 しかし、今はその覚悟がある。 ただ、向かう先は谷底かも知れないがな。
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