終息への集束

9/20
前へ
/38ページ
次へ
  「あ、そういえば、あなたの所って、小さな子にまで経典配ったりしてるの?」 ん? いきなりなんだろう。 「ああ、ごめんね。あなたの信者が私の会社の同僚の子にまで経典配ってるのを見つけちゃったのよ。あなたの教団って、そんなになりふり構わなくなるくらいに運営に困ってたっけ?」 ああ、なるほど。 俺が透に配ってるのを見てしまったわけか。 まあ、手渡したのがまさに俺だということには気付いてない様子だが。 「ああ、あまりに天明教に妄信し過ぎてだれかれ構わず布教している信者がいるみたいだな。さすがにイメージが悪くなるから今度の講演でそれとなく注意することにするよ」 「そうした方がいいかも知れないわね。全く、規模が大きくなると管理も大変ね」 「ああ、全くだ。疲れるよ、本当に」 まるきり、俺のホンネだった。 昔の俺が目指していた権力も、名誉も、金も、全て手に入れた。 しかし、今の状況は俺が求めていた理想とは違う気がする。 全てを手に入れるということのむなしさが、ようやく分かった気がするのだ。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加