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「うん、まあどれくらい協力できるかは分からないけど、応援するよ」
「だね……」
結局、女性陣は当たり障りの無い返答をして、お茶を濁すことになる。
浮かれた大石は、そんな微妙な雰囲気にも気付かない。
彼の目には、ただ前しか見えていないのだから。
しかし、そんな彼でも感じずにはいられなかった。
――この身を貫くような、冷たい視線には。
「え……?」
思わず、ビクッと身を震わせる。
どこからか、自分にただならぬ感情の刃を向けている者がいる。
辺りを見回す。
船内への入り口、自動販売機の陰から、こちらを垣間見る人影に気付く。
追いかけようと走り出そうとした瞬間、人影は素早く船内に消えていった。
「おい、どうしたんだよ大石」
木村の問いかけに、ただ首を振って答える。
人影には逃げられてしまったが、大石の胸にはどうしようもないしこりのような物が残っていた。
――どこかで、見たことがある……。
顔など殆ど見えてはいないのだが、なんとなく既視感があった。
しかしいくら考えても、それが誰だったかは思い出せない。
嫌な胸騒ぎの消えぬまま、フェリーは間もなく銀杏島に着こうとしていた。
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