44人が本棚に入れています
本棚に追加
「た、ただいま……」
緊張した様子で扉を開け、門をくぐれば、懐かしい家の空気が鼻腔から流れ込んでくる。
木と、僅かなショウノウの香り。
街は変わっても、この家だけは変わらずあることを、大石は嬉しく感じた。
「おかえり。大きくなったねえ」
不意に話しかけてきたのは、痩せたメガネの女性。
彼女こそが、大石の母親である大石遥香だった。
「ああ、ただいま。ごめんね、ずっと家を空けちゃってさ」
「いいんだよ、もう。さ、ご飯作っておいたから食べちゃいなさい。どうせあんたのことだから、すぐに友達の家に行っちゃうんだろ?」
完全に見抜いている遥香に苦笑いで返す。
話すことはたくさんある。
だけど今は、とうもろこし畑の少女について聞きたかった。
両親は、一度だけ彼女に会ったことがあるのだ。
大石の他に彼女を知る唯一の存在。
それが岩男と遥香なのであった。
最初のコメントを投稿しよう!