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通されたキッチンに入れば、いかにも美味しそうな香りが漂っている。
クリームシチューにハンバーグ。
大石がこの家にいた頃、大好きでいつもせがんでいたおかずだった。
「ごめんねえ、今のあんたの好物わからないから、昔のままで用意しちゃったよ。何か食べたいのがあったら遠慮なく言ってね」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう」
礼を言い、席に着く。
その瞬間、岩男が嬉しそうに大石の目の前にグラスを置いてくる。
黄金色の液体が並々と注がれたグラスを見て、遥香が苦言を吐いた。
「あなた、準はこれから友達の所にいくんだよ? 酔わせてどうするのさ」
「酔わねえだろお、一杯くらいじゃ。なあ?」
えびす顔の父親にそう言われたのでは、首を縦に振らざるを得ない。
久々の家族の団欒を過ごすには、一時間という時間はあまりにも短すぎるようだった。
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