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「あー、そういえばオヤジさぁ……」
ビールを片手に、大石が切り出す。
すっかり顔を赤くした岩男は、気分良く間延びした返事などを返していた。
「あのさ、俺が子供の頃さ、毎日遊んでた女の子いたじゃん? あの子、今どうしてるか知らない?」
普通に、雑談の延長として放った疑問。
しかし、何故かその瞬間、時が止まったのだ。
先ほどまで笑い声を上げていた両親の顔が一瞬こわばったのを大石は見逃さない。
しかし、何故そんなことになるのか、その理由は全く分からなかった。
「なにを今さら言ってやがるんだ。あの子なら島を出たじゃねえか。お前も一緒に見ただろう? あの子が電車に乗ってここを去っていくのをよ」
暫しの沈黙の後で返って来た言葉は、至極無難なもの。
先ほど、強烈な違和を感じていなければ、この答えで満足していたかもしれない。
しかし、あの沈黙の後でこんな答えはあまりにも不自然だ。
――何かを隠している。
隠す理由なんて無い、そもそもそんな大きなことですらない。
しかし、大石には両親が何かを隠しているように見えて仕方が無かった。
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