消された少女

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  「なるほど、おめえも頑張ってたんだな」 岩男が名刺を眺めながら、感慨深げに呟く。 「ああ、でもここに来たからには、俺も覚悟を決めるよ。親父の鉄工所を継ぐ。技術を身につけるまでには時間がかかるかも知れないけど……」 「ああ、鉄工所は継がなくていいぞ」 「えっ?」 自分の言葉を遮るように挟まれた父の言葉は、大石にとって意外なものであった。 それこそ、全身全霊をかけて仕事に打ち込んでいた父親の姿をずっと見てきたのだ。 いわば鉄工所は、父にとってもう一人の息子と言っても大げさではない。 それなのに、何故継がなくていいなどというのだろう。 他に後継者候補でも見つけたのだろうか。 様々な可能性を考える大石に、岩男は笑いながら言った。 「本当言うとな、限界感じてたんだ。俺の鉄工所はテレビとかで見るようなすげえ部品は作れないし、新しい発明ができるわけでもねえ。どこの鉄工所でも出来ることをぼちぼちやってるだけだ。このままじゃ、すぐに潰されちまう。実際経営だってギリギリだった。そんなもんをお前に残しても迷惑だろ?」 「親父……」 「幸い、この島は人口も増えて、仕事も選べるようになった。飲み屋やマンションも沢山できたし、お前の歌だって売り物になるんじゃねえか? とりあえず、お前はお前の好きなことをやってくれればいい。ゆっくり考えてくれや」 父の言葉に、思わず涙しそうになる。 自分が好き勝手に生きていたのとは対照的に、父は常に自分のことを気にかけてくれていたのだ。 しっかり自分の仕事を見つけて親孝行しなくては。 心からそう思った。
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