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「やっと着いたかあ!」
電車が停まり扉が開くと、大石は大きく伸びをした。
昨晩から移動のしっ放しなのだから、身体はギシギシと油を差してない車輪のように重くなっていた。
「荒井君の家はすぐそこよ、早く行こうよ!」
急かすような彩芽の言葉に、大石は首を振る。
「いや、その前に実家に行かなきゃ。荷物も置きたいし、挨拶だってあるし……」
「あ、そっか!」
彩芽が即座に自分の頭を小突いて舌を出す。
その様子を横目に見ながら、詩織がきゅっと唇を噛み締めた。
「じゃ、一時間後にこの駅に集合だ! 遅れそうだったら遠慮なく連絡してくれよ、大石!」
榊原が大石の背中をバンバン叩きながら、大声で語る。
彼にとってはスキンシップなのだろうが、長年運動をしていなかった大石には些か激しすぎたようで、衝撃に耐えきれずに思わずよろけてしまう。
その身体を支えながら、木村がからかうように言った。
「おいおい、大丈夫かよ。こんなんで家業継げるのか?」
「あ、うん。頑張るつもりだよ……」
口をつくのは、煮え切らない返事。
ここに帰ってくるということは、家に入るということなのだから、木村の言うことは当然のこと。
しかし大石は、家業を継ぐということに関して未だにポジティブにはなれずにいたのだ。
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