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友人と別れた大石は、実家に戻る前に一人でとうもろこし畑のあった場所へと向かう。
街を歩けば成る程、昔と随分と勝手が変わっている。
土滑りをして遊んだ川原はアスファルトで舗装されていて、勇気の証明だった吊り橋は車も通れるような巨大なコンクリートの橋に変わっていた。
幼い頃、彼女に会うためにドロだらけになって駆け上がった丘も、今やしっかりと舗装された道路へと変わっている。
やがてたどり着いたのは、大きな駐車場。
香りも風景も変わっていたが、そこは確かに大石の思い出の場所であった。
「本当に、変わっちまったんだな……」
ついつい感傷的なセリフが口をつく。
もう、この場所であの子と鬼ごっこはできないのだ。
いや、もともとこの年齢になって鬼ごっこなど馬鹿げていることは分かっている。
しかし、とうもろこしの陰からちょこんと覗く彼女の姿を思い出せば、ちくりと胸が痛むのだ。
「……あれ?」
不意に、大石が何かに気付いて視線を止める。
駐車場の端に止められていた黒いライトバン。
その陰に、見覚えのある少女の姿を確認したのだ。
「そんな、まさか……」
赤いリボン、長い黒髪。
車の陰から顔だけ出してこちらを見ている。
有り得ない。あの子だって年を取っているはずだ。
それは分かっているのだが、足は勝手に少女の方へと動く。
もしかしたら彼女が帰ってきて、この島で誰かと結婚し、娘ができたのかも知れない。
そんな憶測が脳裏をよぎる。
しかし、すぐにそれは過ちだったと知る。
大石は、気付いてしまったのだ。
――その少女が放つ、強烈な違和感に。
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