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――おかしい。
そう、大石は思った。
車からこちらを覗く少女の顔。
その向きが異常なのだ。
――真横。
そう、少女の顔は、ライトバンからにょきっと生えているかのように、真横にこちらを見ているのだ。
どんな人間でも、立った姿勢であるならば、多少傾くことができるとはいえ、首は縦になる。
それは、説明すら不要なほどに当然の話。
しかし、少女の首は、ライトバンから真横に伸びているのだ。
理解が追いつかない。
まるで空中に寝そべっているかのようだ。
思わず、足を止める。
その不穏な空気を察知したのか、少女が笑顔を浮かべて口を開いた。
「ねえ、はやくおいでよ」
それは、昔と変わらない声。
あまりにも、何もかも、全く昔のままの、有り得ない声。
「ずっと、待ってたんだよ。ねえ、はやくおいでよ」
そう言って少女が、ライトバンの陰から飛び出してくる。
その姿に、大石は戦慄した。
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