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「嘘……嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘でしょ!? やだ、許して、刺さないで、お願い、お願い、お願いよお!」
だんだんと近づいてくる刃に、詩織が泣き叫ぶ。
髪の毛を振り乱してもがき、細い身体をひねり、何とか刃から逃げようとする。
しかし、そもそも少女の狙いは、詩織を刺し殺すことなどでは無かったのだ。
――刺身包丁が遠くへと弾き飛ばされ、高い音を立てて床に落ちる。
次の瞬間、詩織の頭が、少女の手にがっしりと掴まれた。
「い……痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い!」
ゆっくりと、詩織の首が曲げられていく。
曲がってはいけない方向へ、ゆっくりと、だが確実に。
なぜ、自分がこんな目に遭うのか分からなかった。
自分はただ、明日の返事に思いを馳せながら、眠れぬ夜を過ごしていただけなのに。
さっきまで、テレビのくだらないお笑い番組を見ながらクスクスと笑っていたというのに。
今まで、ひたすら真面目に生きてきた。
勉強し、社会人としてきちんと仕事を全うし、誰に恥じることもない人生を送ってきた。
ただ一つ思い残していたことは、大石への告白のみ。
それをようやく達成したと言うのに。
「やだ、やだ……死にたくな……痛い、痛い痛い痛い、死に、死にたくない! 助け、助けて助けて助けて助けてえええっ! いやあああああああっ!」
痛みと恐怖に、詩織が絶叫する。
生きたい、その想いから溢れ出した叫び。
――しかし、それが結局、彼女の断末魔になったのだった。
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