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「被害者は伊藤詩織、二十六歳。頚部骨折により即死……か。むごいことしやがる」
床に横たわった詩織の遺体を一瞥し、初老の刑事が苦い顔をする。
隣では、若い刑事が手を合わせて沈痛そうな表情を浮かべている。
普段、殆ど人を呼ばない詩織の部屋は、今は多くの警官や鑑識で溢れかえっていた。
「全く、朝一で呼び出されてわざわざ来てみれば、こんな胸糞悪い事件とはな、全くついてないぜ」
「笹見警部、そういうことを大声で言うのはよしましょうよ」
「いいだろ、別に。で、状況は分かったのか?」
笹見と名乗る警部に小突かれ、若い刑事が慌ててメモを出す。
それを慣れない手つきで広げると、早口で内容をまくし立て始めた。
「はい、被害者は伊藤詩織、二十六歳。入島管理官をやっていますね。ここに住み始めたのは三年前。このマンションが出来上がると同時に、自立した人間になりたいと両親に直談判し、ここで一人暮らしを始めたそうです。ご両親にとっては、辛い話ですよね……」
「二十歳過ぎた人間が一人暮らしを始めるなんざ、本来は普通のことだ。狭い島の中だから特別なことに思えるだけでな。続けろ」
「はい。彼女は昨日、友人と飲んで十九時半頃にこのマンションに帰ってきたようです。そして、何らかのトラブルがあり、彼女が殺害されたのが恐らく深夜一時十五分頃。これは、部屋の中で壊れて転がっていた目覚まし時計が差していた時刻です。恐らく、犯人に投げつけようとしたのでしょう」
「そうなると、この時間前後にこの子が殺されたのはほぼ確実って訳か……」
笹見が、無精ひげの生えた顎に手をやって考え込む。
その瞬間、部屋の外から騒がしく詩織を呼ぶ声が響いてきた。
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