首折り姫の惨劇

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「ふぅ……」 バラの香りが漂うピンク色の湯に肩まで浸かりながら、詩織は思わず息を吐いた。 あんな告白をしてしまったせいだろう、家に着いても全く落ち着かず、入浴しても食事をしてもテレビを見ても一向に睡魔は訪れない。 さすがに明日の仕事に差し支えが出ると考え、気分を変えようと二度目の入浴を始めたのは日付が変わる頃だった。 「はあ……告っちゃったなぁ……」 湯船の縁に頭を置いて、敢えて砕けた言葉で反芻する。 それは、未だに夢心地なほど甘美な想いを、ゆっくりと噛みしめて自らの内に取り込む作業。 いわば、自分のしたことの再確認だった。 「成功……するかなあ」 ピンク色の湯をすくい上げて、自らの首筋に流す。 スレンダーな身体付きはどうにもならなかったが、女性として見苦しい姿にならぬよう、努力だけは絶え間なく続けてきた。 運動、食事、メイク、エステ…… その全ては、先ほどの告白のためだったとも言える。 勿論、想いが叶うならこれほど幸せなことはない。 だが、もしダメだったとしても、後悔は一つも無かった。 大石が島を出ることを知りながら、気持ちを閉じ込めてしまった過去がある。 そのせいで、十年近くも前に進めず、足踏みをしていた現実がある。 大石に告白して振られた彩芽は、きちんと吹っ切って新たな恋愛を楽しんでいたというのに。 全く、笑ってしまう。 彩芽に対して抱いていた妬みや憎しみといった感情は、全て過去の自分に対して向けていたものだったのだ。 明日、返事を聞いたら彩芽に電話をかけよう。 成否に関わらず彩芽に報告して、久々に女同士で夜が明けるまで語り合おう。 そんなことを考えていた詩織の耳が、有り得ない音を聞き取った。 ――それは、ピンポーン! という表現が一般的な、玄関のチャイム音。 それだけなら、何でもない。 しかし、時間が異様だ。 浴室に備えられた防水時計を見れば、既に時刻は深夜一時を回っている。 こんな時間に、誰が何の用件でチャイムを鳴らすのか。 暖かい湯に浸かっているはずの背筋に、冷たいものが走った。
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