首折り姫の惨劇

5/11
前へ
/34ページ
次へ
  ――一瞬、何が起こったのか分からなかった。 詩織が住んでいるマンションの扉は非常に分厚く、開閉するときに力を込めなければならず、不満を漏らしていたこともある。 しかし、そんな厳重な扉は、あっさりと破られた。 まるで障子の紙を突き破るかのように、その手はいとも簡単に彼女の砦の門を破ったのだ。 ひしゃげた鉄の姿が、その力の物凄さを如実に語っている。 事実、掴まれた髪は引きちぎられるほどの力で扉に引き寄せられていた。 「ねえ、どこにいくの? なんでドアを開けてくれないの?」 聞こえてきたのは、無邪気な少女の声。 しかし、その片鱗からは確かな狂気が感じ取れた。 「いや、いやいやいやいやあああ!」 詩織が、半狂乱になってもがく。 ――殺される! ――死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 頭の中では、生への渇望ばかりがリピートする。 どうにかして、この場を逃げ出さなければならない。 そんな詩織の目に映ったのは、壁に立てかけてあった金属製の靴べら。 すかさずそれを手に取り、自らの髪に押し当てて力いっぱい切り裂く。 刃物ではない、切れ味など皆無。 しかし、彼女の生への欲求は強かった。 金属の摩擦で、掴まれた髪が切り落とされる。 詩織の華奢な体が、開放された反動で大きく転げる。 しかし、そんな痛みを気にしている余裕など無い。 慌てて起き上がり、扉を背に走り出した。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加