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ガチャリ……という金属音を耳にして、詩織が扉に目をやる。
さきほど、扉を貫いた手がサムターン式の鍵を探り当て、それを開錠したのだ。
即ち、最後の砦が破られた。
来る……!
あの、おぞましいものが部屋に入ってくる……。
詩織は玄関とダイニングキッチンを繋ぐ扉を閉め、ベランダの方へと走る。
詩織の住む部屋は五階。
まさか飛び降りるわけにはいかない。
しかし、あの得体の知れないものに捕まるくらいならば、それもやむを得ないとさえ思えた。
キィィ……
扉が開く音が聞こえる。
ゆっくり、ゆっくりと、闇の中に足音が響く。
詩織はガタガタ震えながら、刺身包丁を構えて床にへたり込んでいた。
足音が、止まる。
扉を開く音が聞こえる。
刃を突き出したままの詩織の鼓動が、早鐘を打ち鳴らす。
――そして、ついに〝それ〟は現れた。
ドアの隙間から、へしおれた少女の首がちょこんと覗く。
少女は満面の笑みを浮かべ、詩織に言い放った。
「――見ぃつけたっ」
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