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――しかし、そんな最後の希望は呆気なく絶たれた。
完全に顔にタオルが被せられている状態で、少女は詩織の刺身包丁を受け止めたのだ。
「ちょっと、やだ、やだ、やだ!」
振り払おうとしても、凄まじい力でびくともしない。
慌てて包丁から手を離そうとするも、時すでに遅し。
少女の驚くほどに冷たい手が、包丁をつかむ詩織の手をがっしりと握りしめる。
そして、愉悦に歪んだ笑顔で、甲高い声をあげた。
「つーかまえたっ!」
「いやあああああああ!」
詩織の叫びが、薄暗い部屋に虚しく響きわたる。
これから自分がどうなってしまうのか。
どんな恐ろしいことが待ち受けているのか。
考えることすら拒否したいほどの現実。
しかしその片鱗を、詩織はすぐに知ることになった。
「え……? ちょっと、やめて、やめてよ!」
不意に、少女の腕に力がこもる。
そして、包丁を掴んだ詩織の手が、少女によって無理やり向きを変えられていく。
やがて、少女に向けられていた刃の切っ先は、詩織の腹部へと向けられていた。
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