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「お疲れ様でした、警部」
「いや、結局何にも新しい情報は掴めなかったけどな。大石は放火の件でも話を聞きたいってんで、明日まではここに居てもらうことになった。本人も構わないといっていたしな」
疲れきった表情で取調室から出てくる笹見を、中川が出迎える。
しかし、笹見のうかない表情は疲れだけではなさそうだった。
「なるほど。大石には入島管理サーバのパスワードを知ってる素振りも無かったんですか?」
「ああ、カマをかけてみたけど知ってる素振りは無かったな。しかし、俺らはてっきり犯人が伊藤詩織を脅してパスワードを聞き出したのかと思っていたが、パソコン内に普通にテキストファイルとして存在していたのは驚きだったな」
「まあ、入島管理サーバーのパスワードなんて知ったところで、使い道は殆どありませんし、加えて伊藤詩織があまり友人を呼ばない一人暮らしだったのなら、自分のPCの中にそういう情報を保存している事も充分考えられますよね」
「問題は、犯人がPCの中にその情報が入っていることを知っていたのかどうかだ」
「難しいところですよね……。まあ、今日はもう遅いですし、警部は先に帰っていてくださいよ」
中川の言葉に、笹見が頷く。
今回は離島で起きた事件だと言うことで、警官にはそれぞれマンションの一室が貸し与えられている。
もともとリゾート地開発のために作ったマンションで、空き部屋はたくさんあるのだから、上手い活用法であった。
「お前は残るのか?」
「ええ、今日警部が言っていた事件の資料を探そうと思いまして」
「そうか、明日もあるんだからあまり無理はするんじゃないぞ」
「はい、分かってますよ」
中川がにっこりと笑って資料室へ入っていく。
笹見は一応それを見送ると、緩慢な動きで建物を出て行った。
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