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「うわあああああ!」
「ど、どうしたんだよ、兄ちゃん!」
悲鳴を上げた後で、背後の声に気付く。
振り向けば、ワンカップを手にした赤ら顔の中年男性が不思議そうな様子でこちらを見ていた。
「なんか血相変えて走ってくるもんだから気になってよ。どうしたんだい? 誰かに追われてたのかい?」
男性の問いを受けて、辺りを見回してみる。
そこには居酒屋通りから流れてきたと思しき数人の酔っ払いがたむろしていた。
どこを探しても、あの少女の姿は見えない。
あの少女の姿は、見えない!
「やった……! やった、逃げ切った……! 帰れる……家に帰れる! よかった、よかったぁぁぁ……!」
「お、おい! 兄ちゃん!?」
人目もはばからず、地面に突っ伏して泣き伏せる。
今ほど生きている喜びを実感したのは、人生で初めてのことだった。
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