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今日も薄暗い電車に揺れて家路につく。待ってる者などいるかどうかも怪しい家だが、早く帰りたい。とりあえず風呂で粘着く疲労を脱ぎ捨てたい。
暖房に火照る座席が尻を僅かに焼く。しかしもはや立つことなんかできるはずもない。
2つ目の駅で女が駆け乗った。30代も半ばの盛りの女は、しかしダークスーツの上に疲労という名のコートを着込んでいる。深夜の地下鉄なんてこんなものか…。
白々しいLEDに嫌気もさしてきたし、目を閉じる。
ふと左の尻が沈んだ。そして鼻に掠める花のような香のような匂い。
閉じたばかりの目蓋をこっそり持ち上げて盗み見る。
他にも席は空いているのに女は隣に座ったようだ。走ってきたのだろう、かすかに呼吸が荒い。匂いはそのせいだろう。
女はいそいそとコートを脱ぎ、マフラーを外した。もわっとした熱気が僅かに左頬を撫でる。
あ…雌の匂い…。
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