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「「「……ふぅ…」」」
無事に『家族での観光』を偽り、門を突破した一行は皆揃って安堵の溜め息をはきだした。
恐らく、"幻の盗賊団"の者と思われる、監視の視線や気配がなくなったからだ。
相手はかなりのやり手の様で、監視に気付けたのはウェル、マチルダ、ガースだけである。
街の中に拠点を置くだけあって、その辺りは徹底しているようだ。
"護衛役"をしていたガース達はギルド"シャイン"へ直行し、母親役のマチルダ、父親役のサム、息子役のウェルは宿を探す。
「あーっ…かったりぃ!!」
「あ、兄貴…一応、まだ外なんで…」
「はいはい、大人しくしてますよ。お と う さ ま!」
そんなウェルの様子に、サムは思わずたじたじ、マチルダも苦笑いといった感じだ。
少年ウェルは、いくら敵を欺く為とはいえ、部下の息子役になるのは気に食わなかったようだ。
しかも、子役として話すとき、普段の高圧的なしゃべり方ではなく…
『おじさん!おしごと、がんばってください!!』
やら、
『おとうさん!おかあさん!早く行こうよっ!!』
などなど、その歳相応の笑顔を振り撒きながら話していた。
その為、門番や街の住民はすっかり騙されていたのだが
サムとマチルダには分かっていた。
その黒曜石の様な、黒の瞳は、決して笑っていなかった事を。
その張り付けの笑顔に、マチルダとサムは悪寒を覚えるのだった。
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