いつかの雨

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「残り香」 君が居たこの場所は 別れを迎えた今も まだここにいるみたいだ 一緒に眺めた景色も 今日いっぱいで終わりだと 見納めしながら考えた 花の香りに包まれて 笑顔で溢れた思い出は 君がいたからできたんだ 今更ながらに感じる思いは全て 無駄ではなかったと考えて まだ認めたくない真実を 無理矢理納得させようとしていた 静寂になれようとして 家を抜け出した深夜 真冬の寒さは身にしみた 吐く息の白さほど 寂しいものはないんだと いつか誰かが言っていた さわさわ囁く星達は 息も吐かずに音を出す 寂しくはないから、と できるなら星の中に紛れていたい 夜空にそっと手を当ててみる 届かせようにも届かないと両足で地団駄をするのだが 変わることもない今に風が体を冷やすだけ いつか誰かが言っていた 白い息は寂しいと 後に誰かがこう言った 暖かいからできるのだと 笑った顔が好きだった 温もりのある手も 流れるようなその髪も 花の香りに包まれて 全てすべてが愛おしく 大切に思っていた 鮮明に覚えてる ちょっとした仕草も この中で生きている いつか君は言っていたね 「まだ消えないんだよ」と 言いたいことが分かったよ 今更ながら気付いたよ 花が香る季節には あの笑顔が咲いている
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