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「なにも思わないなんてことはないよ。亡くなった人たちのことはもちろん気の毒に思う」 「ぼくがいいたいのはそういうことじゃない」  ジョージの声は月の光のように静かだった。 「日乃元の人間が、なんだかぼくは怖いんだ。普段は優しくて善良で思いやりも気配りもある。この国の接客やサービス業のレベルが世界でもトップレベルなのは有名な話だ。でも、一度大切なものを傷つけられると、てのひら返しで徹底して逆上する。証拠もなく襲撃して、迷いもせずに殺害するんだ。タツオも例の貿易会社社長の話をきいたよね」  忘れられない悲惨な事件だった。ダリル・ランドール(44歳)は日乃元の精密機器をラルク公国に輸入する代理店を経営していた。大学時代に知りあった妻エドナ(42歳)とのあいだには3人の子ども。アンドリュー(18歳)、ネヴィル(16歳)の男の子ふたりとメロディ(13歳)である。いつも仕事で世話になっている極東の大国を見学させようと、夏休みに子どもたち全員を連れてきたのだ。
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