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人の手が入っていない野にはおしろい花のほかに葛の花が薄闇にぼんやりと浮かんでいるように見える。
それは灯火のようにも芸妓の髪飾りのようにも風に微かに揺れていた。
葛の甘い、うっとりするような匂いが思わせぶりに喉をくすぐるようで女は誘われるように目を閉じた。
これから季節は鮮やかに成熟し、それからゆっくりと朽ちていく。
それを知ってか、知らずか
おしろい花も葛の花も、今を惜しむように盛んに咲き狂っている。
今を惜しんでも、命を惜しまない。
生き急ぐ命。
スゥっと背筋がひんやりと冷たくなった気がした。
短い
この時は短い
何かを待っている時間なんて、無い
女はそう唐突に感じた
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