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非常階段の扉が、ギィーッと嫌な音を立てて閉まった。
それを直ぐ傍の壁にもたれて聞いた。
・・・はぁ。よかった。
密室で2人きりを回避できた。
安堵のため息が溢れた後、ゆっくり階段を降り始めた。
そして10段ほど降り、踊り場に差し掛かったところで、頭上からまたギィーッと嫌な音がした。
振り返るよりも先に『あ!居やがった!』と怒りを含んだ牟田君の声がした。
声で牟田君だと分かっているのに、振り返るという時間ロスをしてしまった。
一瞬でもロスはロスだ。
慌てて階段を駆け降りるも、パンプスで駆け降りるハンデもあり、何個目かの踊り場で追いつかれてしまった。
ジリジリとにじり寄られ、壁まで追い込まれた。
そして、ドンッと両腕であたしの逃げ道を塞いだ。
・・・これは、一時期話題になった『壁ドン』なのか?
でも、胸キュンなんてしない。
フツーに怖くて、胸がバクバクする。
・・・だって、牟田君、完全に怒ってるもん!
怒らせる事したのはあたしだけど、それでも怖いっ!!メガネの奥の目が怖い!
「…おい!感じ悪りぃ事してんじゃねーよ」
「ご、ごめん」
一応謝ったのに、それでも無言で怖い顔のままジィーッと睨み続けてきた。
その沈黙と緊張に耐えきれず、再び『ごめん』と口を開いた瞬間、唇が塞がれた。
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