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まるで、あたしが口を開くのを狙ってたかのような素早い行動だった。
あまりに突然で、少しの間、自分が何をされてるのか分からなかった。
柔らかい唇や、口腔内に絡む舌の感触を懐かしく感じているうちに
・・・あ。キスされてる。
と、バカみたいにのんびり実感した。
何であたしにこんな事するの?
佐々木君がいるくせに・・・。
あたしの事、フッたくせに。
女だからってフッたくせに・・・。
ぐるぐると色んな気持ちが頭をよぎったけど、それ以上に、
・・・嬉しかった。ただ嬉しかった。
「....あず…さ」
貪るような激しいキスの合間に、呟くように名前を呼ばれた。
抱く時しか呼んでくれなかった名前だけど、
今は心底自分が求められてるようで、キスよりもその声で身体の芯が疼いた。
「....修一、くん」
あたしも抱かれる時しか呼ばなかった名前を呟いた時、また頭上からギィーッと扉が開く音がした。
・・・誰かが降りてくる!
そう思った瞬間、アッサリと唇は離れた。
牟田君を見上げると、あたしを見下ろすその顔は、何故か険しいものだった。
「........訳分かんねー」
そう吐き捨てるように呟くと、壁を憎らしげに拳で叩いた。
呆然とするあたしを余所に、牟田君は独りで階段を降りて行った。
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