―其ノ参―

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「ほらなァ、平気だろ? 確かにコイツは“桜ランク”だが、発現する根性なんざねぇよ。焼け死んじまうもんなァ? 瀬野よォ」  加賀屋は、大介の言技“飛んで火に入る夏の虫”を詳しく把握していた。それは、大介が初恋の子・硯川を助けようとして起きた惨事を、あくまで“事故”として成立させるべく当時の学校の先生達がしつこいほど大介の言技について生徒に説明したからだ。表向きには、大介が苛められるようなことにならないため。本音では、学校のイメージを守るため。  実際にその惨事は事故として処理された。未発現だった言技の初発現に、不運にも女の子が巻き込まれた。自分の言技がこんなにも救いようがないものだとは当時の大介も知らなかったので、本当に事故だったと言える。  当時小学二年生の大介は当然だが、両親も何のお咎めも受けなかった。アレは不運な事故だった。それだけの話――で、割り切れるわけがない。  結局事故から数週間後に、大介の一家は逃げるように引っ越した。 「あの、さっきから言ってる“桜ランク”って何すか?」  これは現在二人いる加賀屋の手下の片割れからの質問。知らないのも無理はない。一般的に言技は大きく分けて松、竹、梅の三分類。“桜”というランクはない。  松竹梅の意味は松から順に上、中、下ではない。特上、上、並である。一番低い梅でも、意味は決して“下”ではなく“並”なのだ。そのさらに下。実際に“下”を意味しているランクが“桜”である。  何故“桜”なのか。花札の並びで松、梅に続くのが桜であるからという説もあり、ただ単に響きが綺麗だからという説もある。松竹梅より下はないので、ランクを決めた当時のお偉いさんか誰かが捻り出したのが桜だったのだろう。  松ランク並に希少な言技。その烙印を押される条件とは、自身にとって命に関わるほどの危険を及ぼすもの。使い手にとってマイナスにしか作用しない、限りなく不必要な言技。  大介の“飛んで火に入る夏の虫”のランクは“桜ノ上”。桜ランクの中では一番マシで、他の桜ランクも大半は桜ノ上である。  ――何故なら、桜ノ中以下の使い手は大多数が己の言技で亡くなっているから。 「桜ランクってのは、早ェ話が人間の欠陥品よォ。まともに生きてる方が不思議な奴らだァ。テメェのような危険人物は隔離されるべきじゃねーかァ? なァ瀬野よォ!」
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