―其ノ参― #2

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「さっき袋叩きにされてた時、俺は怖かった」 「そりゃあ誰でも怖いさ。怖いよ。怖いとも。彼らが最近噂になっている“鬼神”だろ? 恐れて当然」 「違う、そうじゃない。俺が怖かったのは、お前らが俺の代わりに暴力を受けるんじゃないかと思った時だ。……なぁ社木、何でお前は俺を助けようと思った?」 「僕はキミを友達だと思っているからね。ま、一方的だけど」 「もし俺がお前らを友達だと認めていて、そしてお前らがあの時暴行を受ける側だったとしたら――俺は、お前らを助けない」  大介は外気に晒された火傷痕のある右腕を突き出す。 「そんなことしたら、俺は燃えて死ぬんだよ! ヒーロー気取ったら、俺は無残に燃えて情けなくのた打ち回ることしかできない! 最悪、助けようとした相手を燃やすかもしれない! いや、現に一人燃やしてんだよ俺はッ! 助けようとした女の子を燃やしてんだァ! いらねぇんだよ友達なんて! 恋人なんて! 家族なんてッ! 守ろうと行動することすらできない俺に、女の子一人の人生を燃やしちまった俺に、そんな眩しい日向で暮らす価値なんざないんだよォ! 俺は一生日陰でいい! 頼むからほっといてくれ! もういいからさぁ……頼むよぉ……」  床にへたり込み、声は震えているように聞こえた。泣き顔は見せまいとしているのか、顔は上げずに鼻を啜っている。  大介はシャギーの言葉を待った。胸のうちも、過去も、自分の救いようのなさも、全てを曝け出した。どんな暴言でも失望の言葉でもいい。何なら無言で去ってくれても構わない。それだけでも、きっと幾分楽になれるはずだ。 「優しいな、大介君は」  期待は裏切られる。真反対の言葉をかけられ、大介は反射的に顔を上げてしまう。シャギーは「酷い顔だ」と笑って見せた。 「キミが友達を作らない理由も、詳しくは知らないがキミが気にしている過去も、全て優しさと正義感からきているように思える。キミのような男が一生日陰でいいなんて勿体ない」  シャギーはドアノブに手をかけ、大介を見ずに口を開く。 「きずなの手を取れば、日向に連れて行ってもらえる。待ってるよ」  扉を開き、シャギーは大介の家を出た。すぐそこで待っていた照子が少し困ったような笑顔を溢す。
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