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赤とピンクをベースに可愛いもので埋め尽くされている、乙女チックな部屋。窓から朝日の差し込む室内で、姿見鏡の前に立ち身嗜みを整えている女の子が一人。綱刈きずなである。
黄色とピンクの花柄が鮮やかなプリントワンピースを着て、白い小さなバッグを肩から斜めに掛けている。きずなとて年相応の女の子であるため、ファッションには気を使っている。お洒落は結構なのだが、問題なのは今日が“平日”であるということだ。
「よっし!」と口にすると、きずなはドタバタと階段を下りてキッチンにいる母親に「いってきまーす!」と元気よく挨拶をした。
外出は常に超厚底靴であるきずなは、下足入れの中身を品定めしてから、白いブーツを取り出した。履いている途中で、母親がエプロンで手を拭きながら見送りに現れた。
「気を付けていってらっしゃいね、きずな」
「わかってるよー」
平日に私服で出かける娘に対し何も言わないのは、事前に今日は休むと聞いているからだ。きずなが学校をサボるのは大抵誰かのためであると母親はわかっているので、止める気はない。そんな娘を誇りに思ってすらいるのだが、一つだけ心配があった。
「無茶はしちゃ駄目よ。アナタは友達のためとなると見境なく動きすぎるところがあるから」
「だいじょーぶだよママ。今日は少し遠くにいる女の子とお話してくるだけだから」
「そう。それじゃあ、車には気をつけてね」
「過保護だなぁもう」
あはは、ときずなは笑って立ち上がる。見た目が幼いので、母親の心配する気持ちには頷ける。しかも今は私服、しかも花柄ワンピースという少し子供っぽい洋服であるため、制服を着ている普段よりずっと幼く見える。
「じゃあ、いってきます!」
言うと同時に玄関扉を開け、赤髪少女は外へと飛び出した。母親は少し心配そうな顔で玄関ホールに立ち尽くしていたが、鍋のお湯が沸騰する音で我に返りキッチンへと戻っていった。
◇
比較的快適な気温である五月の朝。日差しを浴びながらきずなは最寄りの駅を目指しテクテクと歩いていく。鼻歌を歌っていた最中、ふと思い出したように携帯電話を一つバッグから取り出した。普段腰回りにぐるりとぶら下げている携帯電話は、ワンピースを着ている今は十台全て肩掛けのバッグに収められている。
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