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十台中一番最先端であるスマートフォンを操作すると、きずなはある人物に電話をかけた。
「もしもーし。校長オッハー」
「オッハーきずなちゃん。どうしたのこんな朝早くに?」
「今日学校休むからよろしくね」
「オッケー。出席適当に誤魔化しとくから」
きずなは校長とも友達であった。平然とずる休みを宣言するその姿は、昨日大介のずる休みを陰ながら責めていた子と同一人物だとはとても思えない。
用件を伝え終え電話を切り、スマートフォンをバッグへと滑り込ませる。朝の香りを楽しみながら駅を目指しつつ、きずなは昨日の出来事を思い返した。
野球部の一件を完璧とは言えないまでも解決した後、きずなは自分も何者かの言技により繋がりを断ち切られていた事実を知った。しかも、一つではなく三つも。
トイレで一頻り泣いた後きずながとった行動は、その三人と改めて友達になることだった。切られたうちの一人は学校の女子生徒で、一人は猫好きなお婆さんで、一人はしがない禿げた中年サラリーマン。
言技と持ち前の腕を振るい、きずなはその日のうちに友達になり直した。記憶は互いに戻らない0からのスタートだが、繋がりをもう一度結び直すことができた。この行動に付き合ったことでシャギーと照子の帰宅時間は遅くなったのだが、そのお陰で大介の窮地に居合わせることになったことを、きずなはまだ知らない。
黄金バッテリーや自分の身に起こった事件について、自分にできることはここまで。どうしようもないモヤモヤは残るが、それを吹き飛ばして前を向き歩み続けるのがきずなの良いところである。自分の力が及ばないところの心配をいくら気にしても、活路など一生見えてはこないのだから。
ここでバッグから流行りの音楽が流れる。少し物思いに耽っていたきずなはハッとなり、着うたの発信源であるピンクの折りたたみ式携帯電話を取り出した。表示されている名前を確認してから、通話ボタンを押す。
「やっほー。あしながおじさん」
「おじさんじゃねー。まだ二十九歳だ」
少し枯れたような声で反論した電話の主は、直後に軽く咳き込んだ。
「風邪でも引いたの?」
「昨日の夜は浮気相手を探る尾行をしてたもんでな。まだまだ春だと思ってたが、夜は結構冷えやがる」
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