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ズズッと鼻を啜った彼は、勿論きずなの数多い友達の一人である。名は芦長十一(アシナガ トイチ)。自分の言技を生かし、街で探偵事務所を営んでいる。
「電話をくれたってことは、わかったの?」
「あー……先に言い訳をさせてもらうぞ。俺は昨晩尾行を終えてから、あぁ、終えてからっつっても途中で見失ったんだけどな。しかもその後警察に職務質問された。やっぱり俺は頭脳派なんだよな。尾行とかそんなアウトドアなのは向いてない」
「話が逸れてるよあしながおじさん」
「おじさんじゃねー。お兄さんだ」
「あしながお兄さん」
「長身なイケメンみたいに聞こえていいな」
「実物は短足なのにね」
「オイ」
閑話休題。あしながお兄さんこと芦長探偵は、話を元に戻す。
「言い訳の続きだが、俺は心身共に疲れ果て挙句に風邪を引いたにも関わらず、徹夜でお前の依頼を進めた」
「で?」
「わからなかった」
役立たず。とは流石にきずなも言わなかった。しかしわざとらしく溜息をつき、遠回しに電話の向こうの芦長へ「役立たず」と伝える。
「都市伝説“何も切らないカマイタチ”。これが絡んでいることはおそらく間違いない」
「そのくらいなら自分で調べて知ってるよー。私が知りたいのは、その発現者」
「あぁ、わかってる。とりあえず得た情報をお前に伝えるよ。俺の無力さを罵るのはそれからにしてくれ」
電話を耳と肩で挟み、芦長は自由となった両手でデスクトップパソコンのキーを叩く。やがて画面に表示された内容を見ながら、探偵は話を再開した。
「まず最初に、“鼬”というキーワードを含むことわざはおよそ五つある。その意味と都市伝説の内容を当てはめた限りでは、おそらく犯人の言技は“鼬の道切り”」
「鼬の道切り……」
「この言技の発現者は国のランク付けデータに登録されていなかった。だから、おそらく善良な一般人という立場の人間ではない。ランク付けの拒否や放棄は、一応違法行為だからな」
「あんな都市伝説が流行ってる時点で、善人じゃないことくらいわかるよー」
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