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「例の“桜ランク”と関わりのある女の子だな? やっぱり行くのかお前は。その根性には素直に感服するよ」
「えへへ、どーもどーも」
「教えたのは俺だし、止めやしない。ま、心配しなくとも友達マスターのお前なら上手くやるんだろうけどな。んじゃ、俺は寝るぞ」
「うん、おやすみ。ありがとね名探偵」
ここできずなと芦長の通話は終了した。会話をしながらも歩はきちんと進めていたので、最寄駅は大分近くなっている。駅を目指す足取りは、芦長との会話前より若干だが重くなっているように感じた。
『その根性には素直に感服するよ』
先程聞いたばかりの芦長が発した言葉が、頭の中に蘇る。探偵がそう言うのも無理はない。きずなは今からとある女の子へ会いに行き、あろうことか初対面のその子の心の傷を抉ろうとしているのだから。
全ては、大介と友達になるため。おそらく本人にこのことを話せば、まず間違いなく余計なお世話だと止められる。それを理解した上で、きずなは今日実行に移した。
きっと自分は、その子に酷いことをしてしまう。同時に大介の心の傷も抉ってしまうだろう。――だが、その後で必ずや両者の傷を癒してみせる。荒療治が必要なのだ。特に、大介には。
快晴に恵まれた本日、きずなは大介の初恋の女の子・硯川に会いに行こうとしていた。
◇
同時刻、アパートの一室で瀬野大介はやさぐれていた。痛々しい怪我は未だに大介を苦しめているが、それ以上に大介を苦しめているものがある。
「……俺、何であんなこっ恥ずかしいこと言ったんだろう」
昨日の夜、溜まりに溜まった感情が爆発してシャギーへ心の奥底で留まっていた鬱憤を吐き出してしまった。そのことを思い出した大介は、恥ずかしさのあまりまるで恋する乙女のように枕へ顔を埋める。
しかし、恥をかいた代わりに得たものもある。
心に思っているだけとそれを実際口に出すことには、大きな差がある。吐き出すことで、大介は思い知ることになったのだ。言い逃れができなくなった。――自分は、友達が欲しいのだと。
そんなことはわかっていた。今までは否定して押さえ込んでいただけに過ぎない。だが昨日、大介は初めて誰かに思いの丈をぶつけた。それは誰が相手でもできることではない。大介が社木朱太郎という人物を少なからず慕っているからできたこと。
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