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友達ではないと否定していても、一緒に会話して下校して口喧嘩したりしている。世間一般では、この状態はもう友達ということになるのだろう。あとは、大介が受け入れるだけ。
加賀屋達の拳は、自分の目を覚ますにはちょうどよかったのかもしれない。感謝はしないが、吐き出した鬱憤も含めた昨日の一件で大介は一つの結論にようやくたどり着くことができた。
「友達……欲しいな」
七年以上の孤独から、脱出への一歩をようやく踏み出した。かつて飛び込んだ光に羽を焼かれた日陰虫は、その羽を今一度広げてみる。
しかし、まだ飛び立つことは叶わない。その前に大介には乗り越えなければならない課題があった。今日は学校を休み、それを達成する。できるかどうかはわからない。無理難題かもしれない。だが、それは絶対に避けて通ってはいけないこと。
大介は、布団から傷だらけの体を起こした。自分の言技に巻き込んでしまった初恋の子・硯川へ謝りに行くために。
◇
市のメインとなる駅の四番乗り場に停車している、西へと向かう五両編成の特急。そのうち自由席は後部の三両。その三両を一通り徘徊し終えたきずなは、一人「ちきしょー」と悔しさを滲ませた。
多いとは言い難いお小遣いを節約するため、指定席ではなく自由席を選んだきずな。普段は損ばかりの見た目を生かし、子ども料金での購入にも成功した。きっと売り場のお姉さんには自分が中学生に見えたのだろうと思っているきずなであるが、子ども料金が適応されるのは小学生までであることを彼女は知らない。
可能な限りの最安値での乗車に成功したものの、きずなは平日の込み具合を甘く見ていた。早い話が、座る座席がないのである。
特急での旅はおおよそで片道三時間。座ることを諦めている人も結構いるのだが、足腰にあまり自信のないきずなは諦めが付かずにもう一度座席の一つ一つを確認して回り始めた。
そんな往生際の悪さが功を奏したのか、空いている座席を一カ所見つけることができた。しかし、多くの人が空いていることに気づきながらも座ることを拒否した座席だ。何か特別な理由があるのは明確である。
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