―其ノ肆―

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 その空いている二人分の座席の窓側に腰を据えているのは、若い男性。Tシャツにジーパンというラフな格好をしており、その体は傷だらけであった。右腕全体に包帯が巻かれ、左腕には大量の絆創膏や湿布。顔も左頬の大きなガーゼを始めとして生傷だらけといった風貌で、周囲に「近づくな」というオーラを嫌というほど垂れ流していた。  きずなは誰も座らなかったわけを理解する。だが、彼女は勿論そんなことなど気にしない。 「お隣りいいですか?」 「ん?」 「あっ」  両者の目が合い、お互いの顔が驚きに染まる。きずなは電車内であるということも忘れて思わず大声を発した。 「ダイスケ! 何でこんなところにいるの!?」 「それはこっちの台詞だ! クソッ」  露骨に嫌そうな顔をする大介とは対照的に、きずなは嬉しそうに笑い座席に置かれていた荷物を除けて大介の隣に座った。その頃合いを見計らうように車内アナウンスが流れ、特急はゆっくりと駅を出発した。  大介は流れゆく景色を睨みつけている。窓に映るのは反射した自分の酷い顔。そして、隣に座る赤髪少女の笑顔。 「オイ、こっち見んな」 「なんでー? あ、ひょっとして私の私服姿に照れてるの?」 「私服だとより一層ガキっぽく見えるな」 「ていっ!」  きずなに後頭部を叩かれ、大介の顔が窓に押し付けられる。 「怪我人相手に何してくれる!」 「うっさい! それで、その怪我人さんは何でそんな体になってるのー?」  聞かれると思っていたことを、案の上聞かれてしまった。きずなが知らないということは、シャギー達は黙っていてくれたということになる。大介も男なので、不良から一方的に袋叩きにあったというかっこ悪いエピソードは、できることなら女の子に知られたくはない。なので、慌てて上手い言い訳を練る。 「……クマと戦って負けた」  ビックリするほど下手な言い訳であった。 「そっか。次は勝てるといいね」  そう返したきずなは、可哀想な人を見る目をしていた。当然信じていないであろう反応。第一に、大介は言技の性質上クマと戦うなど不可能である。ベタに「階段から落ちた」くらいにしておけばよかったと、大介は今更後悔した。
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