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大介の霞む視界では、その人物が男か女かの見分けもつかない。パトロールで通りかかった警察官だと思い歓喜しようとした瞬間、自分の推測が間違っていたことに気づかされた。
「……大介君だよね。だよな。そうだろう?」
その聞き覚えのある独特な話し口調は、間違いなくシャギーのものであった。大介は驚くと同時に目へと精一杯神経を注ぎ、人影の正体が間違いなくシャギーであることを確認した。そしてもう一人は、シャギーの背に隠れている照子である。
何故。どうして。そんなことはどうでもよかった。今彼らにかけるべき言葉は、一つしかない。
逃げろ。
だが、散々痛めつけられた体はその一言を発することすら許してはくれなかった。
「何だァ瀬野ォ、お友達かァ? いやいやいやァ、お前みたいな危険人物に友達なんているわけないよなァ」
「友達だぞ」
ハッキリと、躊躇うことなく、シャギーは加賀屋へ向け言ってのけた。愉快そうであった加賀屋の表情が、不機嫌な顔へと塗り替えられる。
「オイ、瀬野は後回しだァ。あの茶髪ボコせェ」
「女の方はどうします?」
「好きにしろォ」
露骨なほど下品な笑みを浮かべた不良二人は、大介から離れてシャギー達の方へと向かっていく。シャギーの“蛇足”は、どう考えても戦闘で役立つとは思えない。かといって、何か特別格闘技の経験があるようにも見えない。
そんなシャギーが起こしたアクションは――照子を盾にすること。
「なななっ! 何するんですかシャギーっ!?」
「ははっ! 随分と根性ねぇ男もいたもんだな!」
「賢いっちゃあ賢い選択だぜ、彼氏さん」
勘違いされ照子の彼氏と思われているシャギーは、平然とした顔でハッタリをかました。
「油断しないことだな。彼女は上級言技使いだ」
迫っていた手下二人は、思わず歩を止めた。シャギーに何か作戦があるのだと悟った照子は、否定せずに震えながら盾の役を演じている。
言技という名の異能が定着している現代、これは定番中の定番とも言える脅し文句である。同時に、誰にも完全否定はできないので多少は効果が期待できる。
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