―其ノ肆―

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 ゴール下に集まりダソ君の写メを撮る女子達。授業中は勿論のこと、基本校内での携帯電話の使用は禁止されている。よって体育教師は怒り狂い、堅く真面目な性格をしている委員長・育も教師に加勢した。  言うまでもなく試合は中断。その元凶となったシャギーは、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ佇んでいる。 「言技を使うとは卑怯ナ」と、リオンがぼやく。“阿吽の呼吸”を使う野球部バッテリーに見られるように、スポーツにおける言技の使用は全てが反則というわけではない。とは言っても、ゴールに入らなくするというのは流石に反則であるが。 「ごめんよ。ごめんね。ごめんなさい。マズイと思った瞬間、ついね」 「ん、待てヨ。キミの言技の効力が切れれば、ボールは自ずとゴールに入ル。ボクが勝利を収めるのは時間の問題というわけダネ!」  ヤッホーイと喜び飛び跳ねるリオンを眺め、シャギーは溜息をつく。その容姿から女子にモテモテである彼が何故一見地味な照子にそこまで入れ込んでいるのか、シャギーには疑問であった。  リオンのターゲットである照子の姿を探すと、ダソ君の写メを撮る集団の中に確認できた。互いにかつて言技に悩んでいた者同士、きずなに引き合わされてから仲良くなるまで、何度も穴に落とされている。それでも見切りを付けずに、シャギーは照子と仲良くなろうとし続けた。それは果たして“好き”という感情なのだろうか。  その点について、シャギーは深く悩みはしない。相性的にもリオンに取られる可能性は低いし、何より今の関係はとても居心地がいい。この先そういう恋愛関係になるのなら拒む理由はないし、ずっとこのままならそれも全く構わない。  社木朱太郎は、現代社会が生み出した草食系男子の代表例のような男であった。  そんな居心地のいい平穏を脅かしかねない出来事が、昨日起こっている。大介を助ける際に、自己防衛とはいえ鬼神に対し攻撃を仕掛けたことだ。あの時は制服だったので学校がバレている可能性もあるし、顔も覚えられているだろう。  万が一、いや、あの恨みを引きずりそうな鬼神のボスなら結構な確率で仕返しをしかねない。警戒しておいた方がいいであろう。大介を助けるためとはいえど、照子はシャギーが巻き込んだようなものである。
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