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この平穏を守るために、やれることはやっておこう。草食系男子が誓ったところで“蛇足”の効果は切れ、ようやくゴールをくぐったボールが床に落ち大きく跳ねた。
◇
電車に揺られること、およそ三時間。大介ときずなを乗せた特急は、とある県の大きな駅に終着した。大介にとっては小学生時以来、きずなにとっては初めてとなる場所。
数多の乗客に習いホームに降り立った二人は、周囲からとても浮いていた。まず、平日にここにいてはいけない学生であること。他にも片や大怪我人で、片や髪が赤い。浮いて当然である。
「大丈夫? 歩ける?」
「あぁ。見た目より痛くねーから」
「そっか。じゃあ、私は私の用事を済ませに行くけど」
「ならここでお別れだな」
「にひひっ、一緒に行動してカップルだと思われたら困るもんねー?」
「どう見ても健全な男子高校生と親戚の子供だろ」
「むきぃぃぃっ!」
大介は襲い来るきずなの頭を押さえつけ、攻撃を無力化する。『KEEP OUT』のテープがきずなの周囲に出現していないところを見る限り危険と呼べるほどの攻撃ではないのだろうが、それでも怪我に響きそうなので防いでおいた。
「もういいよっ。バイバイ」
プイッと踵を返し、きずなは大介から離れていく。正直というか、見てわかる通り大介はきずなを弄るのを楽しんでいる。面白い女の子。自分のようなどうしようもない男と、友達になりたがる女の子。
今日硯川に会えたとして、そして万が一にも許しを得ることができたなら――大介は、きずなからの友達勧誘を正式に受け入れるつもりでいる。
許してもらえるとは思っていない。今日出会うことができ、土下座して好きなだけ殴って蹴ってもらい、挙句の果てには彼女の手により燃やされたとしても、許してもらえない可能性の方が高いと大介は考えている。
そして、許しを貰えない限り大介は友達を作らない。きずなともシャギーとも照子とも、この中途半端な関係を断ち切る。硯川の人生を滅茶苦茶にした自分が、彼女の許しもなく友達とヘラヘラ笑って過ごすなどということがあってはならない。
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