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今日この後、彼女から許しを得られなかったら大介は自らきずなに対し嫌われるような行動に出ることに決めている。シャギーや照子は、激しく拒絶すれば離れていくだろう。が、きずなは違う。生温い方法では、決して諦めてはくれない。
故に、将来的に少し酷いことをすることになってしまうかもしれない。なんて自分勝手な我儘なのだろうと、とうの昔に失望していた自分自身に対し更に失望する。
でも、少なくとも今はまだその時ではない。明日にはそうなっているかもしれないが、それでも今ではない。だから、もう二度とかけられないかもしれない言葉を、きずなに向け発しておこうと思った。
「おい綱刈」
「なーに?」
「えーと……く、車に気をつけろよ」
あまり気の利いた言葉を、大介はかけられなかった。それでも、きずなはとても嬉しそうに満面の笑みを見せてくれた。
大きく「うん!」と頷き、少女は駆け出す。硯川と大介の両方を救い、大介と正式に友達となるために。
少年は歩き出す。過去と向き合い今後の未来を決めるため、ほんの少しだけ日向へと手を伸ばしてみる。
◇
「はぁっ、はぁっ」
照子は逃げる。ただひたすら廊下を駆け、追ってくる輩を撒こうとしている。
ズレた黒縁眼鏡を直そうともせず階段を駆け上り、その先に見えた美術室に飛び込み息を潜める。
「やぁ、待っていたヨ」
「――ッ!」
行動は読まれていた。待ち伏せしていた金髪男の青い瞳が、照子を捉える。慌てふためき逃げ出そうと扉を開けると、外ではポニーテールの凛々しい女性が待ち構えていた。
「そんなっ! だっ、誰か助けてぇ!」
「叫んでも助けは来ないさ。来ないよ。来ないとも」
さらにもう一人、照子が逃げる元凶となった男子生徒が現れる。その手に握られているのは、ピンクの化粧ポーチ。
シャギー、育、リオンの三名に囲まれた照子は、成す術なく丸まった。恐怖で小刻みに震えている。
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