―其ノ肆―

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 落下の際にシャギーは思う。一体何がいけなかったのだろうかと。その疑問は、自分の胸元を見ることで理解できた。  率直に言えば、シャギーは学ランの上にブラジャーを付けていた。  言うまでもなく蛇足による効果なのだが、恥ずかしがり屋の照子に対し下ネタは厳禁である。天は、いや、蛇足はシャギーを見放したようであった。  シャギーが消え、女子のみが残された教室で照子はしばらく両手で顔を覆い悶絶していた。結局この後普通に育が照子の姿を元に戻してやり、照子フェスティバルは多大なる犠牲を出したもののなんとか終結した。  ◇  時計の針がちょうど午後一時を回った頃、見知らぬ街を練り歩いていたきずなは一軒の花屋の前に立っていた。人気の少ない通りにひっそりと佇む店舗兼用住宅。その一階には『花咲生花店』と書かれた看板が下がっている。  芦長探偵の調べた情報では、硯川は今現在ここで働いているとのことであった。  店先に人影はなく、色とりどりの花が鮮やかに店内を彩っているだけ。何となくではあるが、ここに大介が来たという形跡はないように思えた。  電車で彼に居合わせた時点で、実を言うときずなは彼が硯川に会いに行くのだと悟っていた。嫌な記憶のこびり付いた街へわざわざ足を運ぶ理由など限られている。  大介は一歩を自ら踏み出していた。その事実はきずなにとって嬉しいものであり、それならもう自分が硯川に会う必要はないのではないかとも思った。しかし、彼女は今この場に立っている。  自粛など柄ではないのだ。友の為に動くのが綱刈きずなであり、自分に少しでも役に立てそうなことがあるのなら、動かない理由はない。 「でも、ダイスケここまで辿り着けるのかなー?」  きずなが難しい顔で言葉を溢す。そう思うのも無理はない。実は、きずなはここへ到着するまでに結構迷っている。大介が真っ直ぐここに向かっていたのなら、とうの昔に着いていて然るべきだ。だが、その形跡はないように思える。  これはあくまできずなの推測だが、大介はこの場所を事前に調べこの街にやって来たのではないと考えられる。小学二年時から音信不通の相手が何処に住みどうしているのかなど、簡単にはわからない。それこそ、探偵にでも依頼しなければ。
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