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人一人の人生を台無しにした自分が友達を作りたいだなんて、おこがましいにもほどがある。一生日陰虫がお似合いだ。生きていることすら妬ましいであろう。生きるならせめて、暗い日陰でジメジメと。それでも十分贅沢だ。
――それでもなお日向を望む大介は、きっと強欲なのだろう。
「……今日は、叶さんに会いたくて来たんです。差し支えなければ、お店の場所を教えてもらってもいいですか?」
「えぇ、勿論。叶も喜ぶわ」
おばさんはキッチン台から離れると、冷蔵庫に磁石で貼り付けていたチラシを手に食卓へ向かった。それを大介へと差し出す。チラシには『花咲生花店』という店名とフェア開催中というお知らせ。そして、簡単な地図が掲載されている。
「頂いても?」
「どうぞ」
本当に人の良い母親である。にこにこと愛想が良く、初対面である大介を警戒せず家の中に上げている。流石に警戒心が弱すぎるという気もした。
ここに来た目的は、思っていたよりかなりあっさりと果たすことができた。長居は無用。というより、大介の方が耐えられそうもない。謝る相手はあくまで叶であり、彼女の母親ではない。
「すみませんが、失礼します」
「あら、まだお茶も出せてないのに」
「急ぎますので」
「あらそう。また来てね」
部屋を出ようと、大介は立ち上がる。戸に手をかけたところで、大介はピタリと動きを止めた。
謝る相手はあくまで叶。母親は関係ない。――そんな道理は通用しない。
気づかないうちに逃げるのか。結果的に相手を騙すのか。そんな奴が堂々と叶に謝りへ行っていいのか。ここで目を背けるような奴は、叶に会えたとしても何か理由をつけて逃げようとするのではないのか。
男は度胸。震えるほど怖いけど、今やらねば自分は本当の意味で救いようがなくなるような気がした。
床に手をつき「すみませんでした!」と、二度目の土下座を披露した。勢いに身を任せ、全てを叶の母へ吐き出す。
「俺は瀬野大介です! アナタの娘さんに最低なことをした張本人ですッ! 騙すつもりはなかったんです! ただ、言い出すタイミングを見つけられなくて……すみません!」
おばさんは何も言わない。驚いているのか、泣いているのか、怒っているのか。土下座で床を見つめている大介には判断できない。反応がないので、言葉を続ける。
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