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「すみません。そうさせていただきます」
「おう。素直が一番だぜお嬢さん。じゃあ、瀬野の坊主は任せたぞ」
ヒラヒラと手を振ると、大家さんは立派な腹をだるんだるん揺らしながらアパートに隣接している自宅へと戻っていった。
「何か……キャラ濃い人ですね」
「でも、悪い人ではなさそうだ。なさそうですな。なさそうなさそう」
「実際良い人だよ。でも、元暴走族だから帰りは怒らせないよう気をつけろよ」
大介の忠告を胸に刻んだところで、三人は歩みを再開した。
◇
六畳間に座らせられるなり、大介はシャギーに着ているシャツを奪われた。上半身裸の同級生を前に、照子が顔を赤く染める。だが、流石に今の大介を穴に落とすのはあまりにも可哀想だと思い必死で言技の発現を押さえ込んだ。
「何故脱がす?」
「脱がなきゃ処置できないだろう」
「あとは自分でやる」
「いいからじっとしてるんだ。蛇足するぞ」
シャギーの脅しに大介は黙り、仏頂面で胡坐をかいた。シャギーと照子は救急箱から湿布や消毒液、絆創膏やガーゼ等を取り出し素人なりの治療を施し始めた。
「いでっ、いででででっ!」
「男の子なら我慢しなきゃ駄目です」
黒縁眼鏡の奥に真剣な瞳を宿し、照子は大介の治療に臨んでいる。最初こそ少し恥ずかしがっていたが、治療だと割り切ることで恥ずかしさは吹き飛んだようであった。
手際よく治療を施す照子。対するシャギーは、不器用さを惜し気もなく披露していた。絆創膏の貼り付けに失敗してグジャグジャにしたり、掠り傷に包帯を巻いたり、消毒液を溢したりと散々な有様。ついには照子から戦力外通告を受けて玄関の方まで追いやられてしまった。
1Kの間取りとはいえ、玄関は廊下を挟んだ向こうなので照子と二人きりのような状況となる。治療する側の照子はいいのだが、ジッとしているだけの大介は次第に気まずさを覚えた。なので、適当に話題を振ってみる。
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