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「今日は社木と遊びにでも行ってたのか?」
「違います。今学校の帰りなんですよ。シャギーに送ってもらう途中だったんです」
「随分と遅い下校だな。部活か何かか?」
「いえ、ちょっとした事件がありまして」
「事件?」
「それはまた後日お話しします。はい、終わりましたよ」
最後の湿布を貼り終えるなり、照子は見る見る顔を赤くした。治療が終わった今、目の前に半裸の男が座っているだけという状況になる。照子は視線を逸らし「ごごご、ごめんなさいっ!」と、何故か謝罪した。
「いやいや、何で謝んの?」
「えと、その……はっ、裸見てしまって……」
「男の上半身は別に構わないだろ。まぁでも、それなら俺もお前のパンツ見たからおあいこだな」
自分の失言に気づいたのは、言い終えるとほぼ同時であった。林檎のような顔で振り向いた照子は、恥ずかしさで悲鳴を上げようと肺に空気を取り込む。
「まっ、待て村雲! 下にも住人がいるんだ! それに今落ちると俺は死ぬ! ホントに!」
説得を試みるも、どうやら効果はなさそうであった。危険を目視できる大介であっても、対象の真下に突如として大穴を出現させる照子の言技からは逃れられない。アパートから避難しようにも、この怪我では歩くこともままならない。
万事休すかと落下に備え身構えたところで、玄関にまで追いやられていたシャギーがのらりくらりと現れた。普段から照子の扱いに慣れているような素振りを見せている彼なら、この状況を打破してくれるかもしれない。大介は最後の希望に懇願した。
「社木! 村雲を何とかしてくれ! お前ならできるだろ?」
「あぁ、造作もないね。造作もないよ。造作もねぇぜ」
「なら頼む! 早くッ!」
「文句は言わないでくれよ」
そう前置きしてから、シャギーは大介の肩に触れた。そして、言技“蛇足”が大介を襲う。次の瞬間には、大介の耳から糸こんにゃくが湧き出して止まらなくなっていた。
「……ぷっ、はっ、あはははははっ!」
先程までの照れ具合は何処へやら。大声で笑い出した照子を見て、大介は悔しいが納得した。恥ずかしさを笑いという別の感情で塗り潰す。シャギーの取った作戦は、確かに有効なものであった。
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