212人が本棚に入れています
本棚に追加
―其ノ参― #2
うつ伏せの状態で脇腹を蹴飛ばされ、大介は小さな悲鳴と共に路地裏を転がった。
少年ギャングという明確な危険人物である加賀屋には、言われる筋合いのない台詞。どんなに気分を害そうが、怒りを覚えようが、大介には打って出る手段などない。ただ黙って暴行を受け、解放されるのを待つだけ。だが、ここにきて新たな可能性に気づいた。
チームマークを所構わず刻んでいたことが原因で、商店街では今警察官によるパトロールが強化されている。気づいてくれる可能性は存分に期待できた。
小さな希望を感じたところで、それを打ち消すように頭を蹴飛ばされ仰向けにされた。視界に映ったのは加賀屋ではなく、手下の一人。
「ホントだ。なんともねぇ」
「なら俺にもやらせろよ。ビビらせやがってこのネクラ野郎」
理不尽な言葉を吐き、もう一人の手下が大介の腹部を踏みつけた。内臓が圧迫され、呻き声が漏れる。
袋叩きに耐えるよう背中を丸めながら――大介は笑みを浮かべていた。痛いのに、苦しいのに、自分自身があまりにも滑稽すぎて笑いを堪えきれなかった。
外出する際、街に出没している“何も切らないカマイタチ”と遭遇することに全く期待していなかったと言えば嘘になる。あわよくば、噂のカマイタチに今朝見た夢のあの事故に関係する人達との繋がりを切ってもらいたいと心の何処かで思っていた。
その結果が、現状である。
繋がりを切ってもらうどころか、切ってほしい張本人と遭遇してしまった。しかもその元苛めっ子はギャングになっていて、大介の過去の傷を抉りたいだけ抉り、さらには肉体にまで暴力を振るう。
絵に描いたような不運。いや、天罰なのかもしれない。いずれにせよ、滑稽で笑えることには変わりなかった。
「オイ、ズボン脱がせろォ。写メ撮って脅しゃあ、まだ金捕れんだろォ」
「了解っす加賀屋さん」
手下が二人掛かりで大介の穿いているジーパンを脱がしにかかった。一人が大介を押さえ、もう一人がベルトに手をかける。男に脱がされる趣味など勿論ないが、大介は抵抗しなかった。後のことはどうでもいい。とにかく一秒でも早く解放されたかった。
「何だこのベルト。固ぇなぁ」
手下の一人がベルトに苦戦しているところで、状況に変化が訪れる。二つの人影が、路地裏の入り口に立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!