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ここで、大介にとって唯一の知り合いである照子が二人の元へやってきた。そう、まだ“知り合い”である。“友達”となるのは、正式に大介がその意思を伝えてからだ。
「おはようございます瀬野君。お怪我は大丈夫ですか?」
「あぁ、一応な」
「それは何よりです」
ホッとしたように微笑む照子。一見地味な彼女であるが、その笑顔には中々の破壊力があった。大介は恥ずかしくなり、顔を背ける。
「アレ? 照子さん今、瀬野のこと何て呼んだ?」
「普通に瀬野君ですけど……あっ」
照子は不運にも思い出してしまった。数日前に、育から大介用のあだ名を成り行きで譲渡されていたことを。
正直な気持ちでは、使いたくない。だが、先程からそれはもう物凄い期待の眼差しを育から向けられている。無理に使う必要などないのだが、そこは照子の人の良さが仇となった。躊躇いがちに口を動かす。
「あっ、ああああの!」
「何だ?」
「……ネ、ネクラマンサー」
しばし、三人の間に静寂が訪れた。周囲から聞こえる雑談が聞こえなくなるほど集中し、大介は照子の発言について思案する。
ネクラマンサー。ネクロマンサーとは違う。単純に間違えただけなのだろうか。しかし、仮にネクロマンサーだったとしても何故そんな生きていく上で口にする機会の少ない言葉を今口走ったのか全くわからない。
結論、わからない。大介は困ったように苦笑いを浮かべた。
「えっと……どういう意味?」
「はっ、恥ずかしいですっ!」
大介の座る椅子の真下に、大穴出現。
「何でだぁぁぁッ!?」
「ごごご、ごめんなさーい!」
照子の謝罪直後に、激しい衝突音が聞こえてきた。その音に照子は顔を覆い、育は溜息をついている。
程なくして、椅子を片手に階段から教室へと大介がかなり不機嫌な顔と共に戻ってきた。
「ホントごめんなさいっ! 怪我なかったですか?」
「元々傷だらけだから別にいいけどよ。何で俺は落とされたんだ?」
椅子を自分の机の前に置きつつ、大介が尋ねる。すると照子がまたもや恥ずかしそうな表情をしたので、大介は慌てて「やっぱいい! 答えなくていい!」と照子を落ち着かせた。
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