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「それで、どうだったの?」と、育が大介に話しかける。
「どうって……落下の感想か?」
「違うわよ。あだ名よあだ名」
「あだ名? ……あぁ、ネクラマンサーってあだ名だったのか」
ようやく照子が発した言葉の意味に気づいた大介は、苦笑いを浮かべて育にだけ聞こえるようボソリと呟いた。
「正直、センスないな」
まさかそのセンスないあだ名の発案者が照子ではなく育だとは、夢にも思っていないことであろう。一瞬顔に怒りが見えた育であったが、それはすぐに誤魔化すような笑顔へと変わった。
「そうよね。ネクラマンサーなんてセンスないわよね。ドンマイ照子さん」
「ええええええええ」
あまりにも理不尽な裏切りを受け照子が泣きそうになっていると、教室の戸が開く音が聞こえた。訪れたのがきずなかシャギーならば、自分に代わり弁解してくれるかもしれない。そんな淡い期待を胸に振り返った先にいたのは、残念ながらお馴染みの天敵・栗栖リオンであった。
「やぁ照子サン。今朝もお美シイ。ムムッ! 何ですかそのネクラっぽい男ハ! 照子サンに近づくとは恐れ多いにも程がアル! 確かに照子サンの美貌はクレオパトラ、楊貴妃、小野小町のいずれをも凌ぎ、艶々としたそのたまご肌に触れてみたいというキミの思考はわからなくもナイ。天の川の如き煌めきを放つ黒髪はより彼女の色気を惹き立て、セーラー服に包まれている程よいサイズの胸ぉおあぁぁぁァァァー……」
栗栖リオン、落下。
「……何だ今の男は?」
「栗栖よ。照子さんに惚れてるの。このクラスの生徒なら普通知ってるわよ?」
育の言う通り、毎日このような騒ぎが起きているのだから知っていない方がおかしい。でも、大介は知らなかった。興味がなかったから。視野に入っていたとしても、知らぬ間に除外していたのかもしれない。自分には縁のない素敵な世界だからと、考えないようにしていたのかもしれない。
「もうすぐホームルームね。皆席に着いてー!」
クラス委員長の役目を果たすため大声でクラス中に呼びかけ、育は大介の席から離れていった。と思いきや、長いポニーテールを揺らし振り返る。
「自己紹介のお返しをしてなかったわね。ワタシは九頭龍坂育。苗字は嫌いだから、名前で呼びなさい」
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