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「……は? 一体何がどうなって……?」
「ふふん」きずなが笑う。「サプライズだよ、オースケ」
数々の疑問が、大介の頭を過る。その数が多すぎて、大介自身把握しきれない。尋ねたいことがあまりにも多すぎる。だが、聞かずともわかることもあった。叶がここの高校の制服を着ているということは――そういうことなのだろう。
「硯川……ひょっとして、入学したのか?」
「そうですよ」
「一体どうやって」
一ヵ月と少し前に入学式のあった高校に生徒をねじ込むなど、まずありえない。しかも他校からの編入とは違う。仮に中途入学の制度があったとしても、それは学期の変わり目等に行われるのが基本だ。この中途半端な時期にはまず行われない。
「簡単だよ」
叶へ向けた質問に答えたのは、彼女の隣で鼻高々に踏ん反り返っているきずなであった。
「校長にお願いしただけだよー」
拍子抜けするような回答に、大介は体の力が抜けた。思えばこんなことができるのは、きずなくらいしかいない。彼女が友人一人一人に信頼され、愛されているからこそできること。きっと校長はとんでもなく苦労したことだろう。それを拒絶せずやってのけたのは、やはりきずなが好かれているからに他ならないのである。
「あ、勘違いしないでよ大介君。きちんと入学試験は受けたからね」
「それよりお前、その……お、親はいいって言ったのか?」
少しだけ状況が呑み込めた今、一番気になるのはそこであった。特急で三時間もかかる場所から通学など不可能なので、叶は一人暮らしをするか親と共に引っ越すかの二択からいずれかを選ばなければならない。硯川家は一軒家なので、前者の確率の方が高いであろう。
苛めを受けてきた娘に一人暮らしをさせ、さらには学校という忌まわしき場所へもう一度通わせる。しかもその学校には、娘の顔を焼いた瀬野大介がいるのだ。猛反対されるのが関の山だと、簡単に想像がつく。
「両親は説得しました」
「それで、折れたのか?」
「大分怒られたけど、何とか。きずなさんも一緒に説得してくれたし」
隣できずなが照れたように笑う。叶の話を聞く限りでは、きずなは土日の間にもう一度叶の住む街へ出かけて行ったことになる。友達のためなら、どんなことでもやってのける。毎日休むことなく、友達のために動き続ける。呆れるほどの友達想い。それが綱刈きずななのである。
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