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「『絶対に苛められず、娘さんが楽しい学園生活を送れることを約束します』って、きずなさんが結婚を懇願しにきた彼氏並に頭を下げてくれたの。かっこよかったなぁ」
「あははっ、やめてよ恥ずかしいから」
きずなが叶の両親に誓った“絶対に苛められない学園生活”。それはまず間違いなく実現できるであろう。この学校において、きずなの言葉は鶴の一声だ。実際にトップである校長をも動かしている。
友達を誰よりも愛するきずなが何よりも嫌うのは、友達が傷つけられることである。ほぼ全校生徒ときずなは友人関係を成立させているので、誰かが苛められるということは即ち友達を傷つけられるということになる。なので、この学校では少なくともきずなが入学して以降苛めの話は聞かない。単純に苛めっ子がいないだけというのもあるかもしれないが、大前提として誰もがきずなに嫌われたくないのだ。
そんな彼女が絶対の自信と明確な根拠を武器に説得に加担した結果、叶は今この場に立っている。両親もできることなら高校に行かせたいという気持ちがあったのだろう。
「……花屋は辞めてよかったのか?」
「うん。元々親戚の店だし、手伝いみたいなものだったから」
「そうか」
穏やかな気持ちに満たされる。叶がここにいて、これからは昔のように毎日会うことができる。その事実は、大介にとって本当に嬉しいサプライズとなった。
時々会いにいくつもりではあったが、叶だけ学校に通えず花屋で働いたままという結末を大介も気にしていたのだ。人生で一番楽しめる時期を省かれたまま、叶は大人にならなければならない。わだかまりはあったものの、自分には動きようがないと諦めていた。
それが、きずなの頑張りでこの通りである。本当に、本当に、彼女には頭が上がらない。
「なぁ綱刈」
「なーに? あっ、またお節介とか言うんじゃないよねー?」
「ありがとう」
すんなりと、その言葉が出た。随分と久しぶりにその言葉を使ったような気がして、大介はとても懐かしく、それでいて優しい気持ちに包まれた。同時に何かが吹っ切れたような、妙な感覚。気がつくと、大介はいつもの不機嫌そうな顔を崩し笑顔になっていた。
礼を言われたことに驚き過ぎて、呆然と突っ立っているきずな。大介は視線を隣の叶へと移し口を開く。
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