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「硯川も、俺を許してくれてありがとう。これからよろしくな」
「え? あ、はい。よろしく……」
叶もその爽やかな礼に驚き、反応に少し困っている。次に大介は振り返り、シャギーと照子を交互に見た。
「社木、村雲。絡まれてるのを助けてもらった礼をまだ言ってんかったよな? ありがとう」
「……いいさ。いいよ。いいですとも」
「はい。あの……どういたしまして」
シャギーも照子も、そう答える表情は強張っていた。次なる大介のターゲットは、警戒してファイティングポーズをとっている育。
「九頭龍坂もありがとう。これからよろしく頼むよ」
「……苗字で呼ぶなと言ったはずよ」
ささやかに反論する育の体は、言い知れぬ恐怖に震えていた。今目前で何やらキラキラとした眼で話している大介は、今までの大介と違いすぎる。
「これで俺達は友達ってことでいいのかな?」
「まぁ……そ、そうだね」
「嬉しいなぁ! うふふっ、あははっ」
大介の上品な笑い声に、一同は背筋を凍らせた。どう考えても別の人格が表に出てきている。もしくは霊的な何かに憑りつかれたに違いない。どちらにせよ、この綺麗な大介は色々と見るに堪えない。
「セイヤァッ!」
ここで恐怖に耐えきれなくなった育の回し蹴りが大介の首筋に炸裂。“九頭龍坂”という苗字から取って“ドラゴンテイル”の異名を持つその必殺技をまともに食らった大介は、床を数回バウンドしたのち動かなくなった。
◇
大介が目を覚ました時、最初に飛び込んできたのは『体のしくみ』という名の本であった。学校の図書室に必ず一冊はある、男女の性に関する知識をオブラートに包んだような絵と共に掲載している、少しエッチな匂いのする本。もっとも、それを手に取り「エッチな本だー」等と騒ぐのは精々中学生までだろう。
そんな本を広げて今まさに大介の顔に被せようとしているシャギー。大介は寝かされている長椅子から跳ね起き本を押し退けた。
「おしいね。おしいな。おしかった。もう少しで“エッチな本を読んでいたらついうとうとして眠ってしまった大介君”の完成だったのに」
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