―其ノ伍―

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「何読んでんだ?」 「あ、大介君。もう悪霊は出ていったの?」 「悪霊?」  そんなものに憑かれていた覚えのない大介は、難しい顔をする。屋上での素直なありがとう連発があまりにも唐突で尚且つ不気味だったので、叶もきずなも大介は悪いものに体を乗っ取られたと思っているのだ。 「何だよ悪霊って?」 「記憶が飛んでるんだね。無理もないよ。オースケは覚えてないだろうけど、屋上で恥ずかしげもなくお礼言ったりキモく笑ったりしてたんだよ?」 「……アレは素の俺だ。キモくて悪かったな」  きずなと叶が同時に固まる。静かな空気に耐えている大介の顔は、次第に赤みを帯びていった。 「素であんな恥ずかしい行動を……成長したね!」 「馬鹿にしてんのバレバレだぞ綱刈。あー! 素直になってみたらこの扱いかよ! あんまりだ!」 「まぁまぁ、これでも見て落ち着いて」  そう言って叶は大介に自分が読んでいた本を見せた。その本は植物図鑑で、開かれたページには薄紫のふわふわとしていそうな花が載っている。 「これは芍薬(シャクヤク)というお花です」 「まぁ、綺麗だな」 「花言葉は“恥じらい”です」 「お前も馬鹿にしてんのかよ!?」  叶の高度なボケにきずなとシャギーが思わず舌を巻いた時、図書室に照子と育がやって来た。瞬間、大介の脳裏に育から浴びせられた回し蹴りの恐怖が蘇り、へっぴり腰で身構えた。 「おっ、俺に何の恨みがある!」 「気持ち悪かったからつい……悪かったと思ってるわよ。はいコレ」  渋々ながらも謝罪しつつ、育は大介に湿布を手渡した。 「保健室からわざわざ取って来たのか? なら最初から保健室の方に運んでくれりゃよかったのに」 「そんなことしたら、保健室の先生にワタシが蹴ったってバレるじゃない。クラス委員長が暴行なんてことが知れ渡ったら、この学校は無法地帯になってしまうわ。世紀末よっ!」 「大袈裟すぎんだろ!」  回し蹴りに“ドラゴンテイル”などという異名を貰っている時点で、結構な頻度で暴力を振るっていることは予想できる。それでも今まで世紀末にならずに済んでいるのだから、気にする必要はないと思える。もっとも、育ならば世紀末になったとしてもボスに君臨できそうであるが。
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